近代建築Watch

旧制山口高等学校講堂

山口県山口市の近代建築その11

山口市の中心街から南西方向、住宅街の一角に県立山口高校の校地が広がります。

この敷地の南端、校門を入った左手奥に、木造二階建ての洋風建築が残されています。この建物は前身の旧制山口高等学校時代の大正11年に建てられました。

木造二階建て下見板張り。古典様式にセセッションを加味したこの時代らしい意匠で、外壁に並ぶ縦長窓、バルコニーを乗せた玄関庇や庇を支える円柱、要所を飾る幾何学模様、正面左右に構えた塔屋等々、各地に現存する旧制高等学校の講堂と共通する表現手法が見られます。

旧制山口高等学校は大正8年の新高等学校令によって設立され、昭和24年の学制改革により新設された山口大学の母体となります。

これに伴い旧制山口高等学校の校地は山口大学文理学部へ引き継がれますが、昭和29年に山口大学が移転すると同時に現在の県立山口高等学校が継承します。

旧制高校時代の校舎はその後も同校の学舎として使われますが、昭和40年代に建替えの為に取り壊されて行きます。この講堂も当初は解体撤去の予定でしたが記念館としての保存へ変更され、曳家によって現在の場所へ移されます。
北側の壁面。建物は奥行き方向に長く伸びます。

西面の眺め。

敷地外側から南面を眺めます。

河村写真館

山口県山口市の近代建築その10

前回紹介した旧山口武徳殿から国道を東へ進み、交差点を南へ曲がります。程なく進んだ先に広がる八坂神社の境内南端の一角に、明治期に建てられた洋風建築が残されています。

この建物は山口市で最初の写真館として明治20年頃に建てられました。

木造２階建て下見板張り寄棟造。正面二階に三連アーチを並べたベランダバルコニーを設け屋根上に塔屋を載せます。

山口市内でも初期に建てられた洋風建築で、地元の棟梁による擬洋風建築となりますが、コロニアル風の特徴が良く捉えられています。

この写真館は元士族の小野為八が明治８年に開業したのが始まりで、明治20年に引き継いだ松原写真館の時代に現在の建物が建てられます。写真館はその後も称号を変えながら引き継がれて行きますが、その過程で増築が加えられ現在の姿となります。

昭和30年に最後の継承者となる河村写真館として平成22年まで営業を続けましたが、その後は空き家となり、令和6年に山口県に買い取られます。

建物側面を眺めます。切妻屋根の張り出し部分は後年に増築された部分で、居住区画として使われていたようです。

三連アーチのバルコニーが設置された北面。この建物は道路に面した南側では無く八坂神社に面したこの面が正面で、ここまで見てきた写真は建物の裏面となります。

南西方向からの眺め。屋根上の塔屋は物見台として使われたそうです。
南面の眺めがこちら。南西の三角破風のある区画も後に増築されたものです。

旧山口武徳殿

山口県山口市の近代建築その9

旧山口県庁舎や旧山口県議会議事堂が建つ県政資料館から国道9号線を北東へ程なく、国道の南側の敷地に大きな屋根を葺いた近代和風建築が見えてきます。

現在は山口県警の体育館として使われているこの建物は、大日本武徳会の演武場として昭和５年に建てられました。

大日本武徳会は武道全般の振興を図る目的で設立された組織で、京都に本部を置き、全国主要都市更には台湾や韓国の都市に演武場である武徳殿を建てて行きました。

各地に建てられた武徳殿の規模や外観は様々なものでしたが、殆どが大きな瓦屋根を葺いた和風の意匠に西洋技法を取り入れた和洋折衷様式のものでした。

この山口武徳殿も漆喰壁に大きな格子窓を並べ、切妻の大屋根や軒に廻らせた裳階等、寺院の本堂を思わせる建物ですが、コンクリート造の基礎を据え、吹き抜けを持つ内部の小屋組みも西洋式のものが使われています。
建物東面の眺め。屋根の妻面に懸魚や鳥衾を飾り、漆喰壁に肘木が並ぶ本格的な和風の意匠です。

四周に廻らせた格子のガラス窓。大きな窓は採光に優れ、夏場は開け放して通風を確保すれば、張り出した裳階が日差しを遮る効果と相まって室内温度を適度に和らげます。

南面からの眺めがこちら。
他の面の入口に比べて一回り入口幅が広く、上部に丸窓が添えられたこの面が正面だと思われます。

角を曲がって西面から。
国道に面した北側です。

旧山口県立図書館第二書庫

山口県山口市の近代建築その8

前々回に旧山口県立山口図書館を紹介しましたが、この旧山口県立山口図書館の建物は二代目にあたるもので、初代の山口図書館は明治36年に現在の山口図書館のやや南の場所に開設されました。

初代山口図書館の本館はその後に解体されましたが、大正期に増築された煉瓦造の書庫が唯一現存しています。現在はアートスペースとして使われているこの建物は初代山口図書館の第二書庫として大正7年に建てられました。

煉瓦造三階建て切妻屋根造。イギリス積み煉瓦の壁面に小さな窓が並びます。一般的な煉瓦倉庫の造りで、装飾要素はほぼ見られませんが、均等に配置された縦長窓が背の高い建物壁面を惹き立てます。

出入口は建物南面の左端に設置されていましたが、現在は手前に建てられた増築棟に取り込まれて外からは見えません。

この建物は初代図書館の新しい書庫として建てられたものの、図書館が昭和3年に移転する事となり、書庫としての役目は僅か10年と短いものでした。その後は旧図書館の敷地に建てられた教育会館の施設として長く使われますが、昭和57年に教育会館が移転すると再び空家となります。

放置され老朽化したこの建物について一時は解体が検討されましたが、地元の保存運動によって存続が決議され、改修を加えた後に現在の用途に充てられています。

裏側から側面の様子です。