2024年 08月 18日
旧周防銀行本店
山口県柳井市の近代建築その2

山陽本線柳井駅の北側、駅前から続く通りが緩やかな坂を上る途中に、明治期に建てられた銀行店舗が残されています。
この建物は周防銀行本店として明治40年に建てられました。
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古くから港が開かれた柳井は、江戸期には特産の綿花を使った綿織物や菜種油・綿実油の生産や、醤油、塩の商いで栄え、周防地方で最大の商業都市として発展しました。
明治期になっても柳井は物流と商業の拠点としての地位を保ち、豊かな地域経済に支えられて近代的な都市が築かれていきます。
このような商業や交易の繁栄による資本の蓄積の中で発足したのが周防銀行で、地場の商工業者有志の出資によって明治31年に開業した同行は、その後僅か10年程で山口県で最大の預金量を誇る規模にまで発展を遂げます。
現存するこの旧本店は、柳井銀行の繁栄の頂点となる明治末期に建てられたもので、古典様式を基にした優美な造りは、当時の柳井の繁栄ぶりを今に伝えます。
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木造2階建て、外壁はモルタル仕上げ、寄棟屋根は鉄板葺き。1階壁面には縦長アーチ窓、2階壁面には方形の縦長窓を並べ、窓の両脇に屋根まで貫く付柱を飾ります。
ドーム状の半円屋根を被せた入口上部のバルコニー、軒下の帯状のモールド、窓周りのアーチ飾り等、この時代の銀行建築の装飾表現が各所に盛り込まれています。
設計は日本銀行の多くの店舗を手掛けた長野宇平治が原案を作り、弟子にあたる佐藤節雄が担当しました。
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現在はシンメトリーな造りの正面側ですが、古い写真を見ると入口は中央ではなく建物右手側に付けられ、玄関ポーチには半円ドームの屋根を乗せた庇を構えていました。その他にも建物中央の屋根上には円形のメダリオンを据えた大きなペディメントを掲げ、窓の上下部分もモールディングが添えらる等、今以上に豊かな装飾表現が為されていました。
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地域最大の銀行として経済を支えた柳井銀行ですが、この建物が建てられた僅か7年後、取付騒ぎを発端として休業に追い込まれ、程なくして廃業してしまいます。その後建物は百十銀行、山口銀行に引き継がれ、銀行店舗の役目を終えた後は市に移管され、観光案内所や資料館として現在に至っています。
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by sunshine-works | 2024-08-18 15:40 | 近代建築 山口県 | Trackback | Comments(0)


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