<   2012年 09月 ( 7 )   > この月の画像一覧

2012年 09月 27日
旧鳥取家庭裁判所(小鹿谷公民館)
鳥取県湯梨浜町の近代建築

鳥取県の中部、昔ながらの農村風景が残る長閑な集落の一角に、かつての裁判所建物が移築保存されています。現在は地区の公民館として使われているこの建物は、昭和3年に鳥取家庭裁判所として建てられました。
f0116479_1832393.jpg

集落の中程、狭い路地を抜けて山道の入口に差し掛かる一角に、周囲の農家とは佇まいを異にする木造下見板貼りの建物が見えてきます。建物の中央に小さな張出を設ける以外は凹凸の無い長方形、寄棟屋根には和瓦を葺きます。
外壁は下見板を基本に一部を横破目板とし、上部に明り取り窓を添えた縦長の上げ下げ窓が洋風意匠を強めます。華美な装飾表現はありませんが、この時代の洋風木造庁舎の雰囲気を良く伝えます。
f0116479_20331348.jpg

f0116479_1831278.jpg

昭和3年に鳥取市の中央、鳥取城址の傍に鳥取家庭裁判所として建てられました。老朽化によって昭和37年に解体される予定だったものを当地に移築し、小鹿谷公民館として現在まで使われています。
裁判所として使われていた年数よりも遥に長い時間をこの地で過ごした事になりますが、良好に裁判所時代の姿を留めています。
f0116479_1840473.jpg
f0116479_18411556.jpg

f0116479_18413889.jpg

f0116479_18432384.jpg

小さな張出部分を挟んで左右対称に棟が伸びます。
窓の配置が左右で異なるのは、一部の窓をサッシに替えた際の改修でしょうか。
f0116479_18344193.jpg

f0116479_18392445.jpg

f0116479_18385656.jpg

f0116479_18401035.jpg

f0116479_18394568.jpg

側面から玄関のある北側へ廻ります。
f0116479_20144159.jpg

f0116479_20151715.jpg

玄関は至って簡素。この時代の庁舎に顕著な車寄せらしきものもありません。移築の際に省かれたとも思えます。
f0116479_20203730.jpg

f0116479_20212734.jpg
f0116479_2025593.jpg

f0116479_20252292.jpg

通用口らしき出入口もあります。
f0116479_20241610.jpg

偶然にも内部の補修作業が行われていました。許可を得て内部を拝見させていただきました。
f0116479_20315424.jpg
f0116479_2031429.jpg
f0116479_2031346.jpg

全国各地に戦前築の裁判所建物が現存しますが、多くは煉瓦やコンクリート造の大規模な建物で、このような木造・小規模な裁判所建物の現存例は僅かです。
この旧鳥取家庭裁判所は現存する昭和初期の木造裁判所として唯一の存在となります。
f0116479_18334268.jpg


by sunshine-works | 2012-09-27 20:50 | 近代建築 鳥取県 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 23日
坂出港務所
香川県坂出市の近代建築その8

古くから各種の製造業が栄えた坂出は、戦後には沿岸の塩田跡地に重化学工業が進出し香川随一の工業都市に成長します。この坂出の交易を支え、四国一の貨物取扱高を誇る坂出港の一角に、かつて港務所として使われていた建物が残されています。昭和9年に建てられたこの建物は1階が大阪商船の乗降場、2階を港湾事務所に充てられ、昭和31年まで使用されました。
f0116479_1862461.jpg

昭和31年に港務所としての役目を終えたこの建物は、海上保安署として15年間使われ、その後は市施設や事務所として使われますが、現在は一部が市の倉庫となっている以外は空区画、手入れもされず荒れた状態となっています。
f0116479_1865565.jpg

f0116479_1824064.jpg
f0116479_18245256.jpg

鉄筋コンクリート3階建、2階と3階部分がそれぞれセットバックしながら重なるルーフバルコニー形式とし、塔屋上部に小さなドームを乗せます。
平面を組み合わせ、陸屋根を葺いた現在に通じる外観ですが、各所をメダリオンやモール、付柱等で飾り、古典様式の意匠を色濃く残します。
f0116479_18254526.jpg

f0116479_18262241.jpg

正面中央に設けられた車寄せ。
f0116479_18272181.jpg

f0116479_18274168.jpg

f0116479_18275665.jpg
f0116479_18293718.jpg

f0116479_18292422.jpg

側面の入口です。
f0116479_18282823.jpg
f0116479_18281524.jpg

入江越しに遠方からの眺め。
f0116479_18305482.jpg
f0116479_18302424.jpg

坂出の交易を支える重要な役割を担った建物ですが、現在は港の一角に半ば放置された状態で残されます。
高松港務所が取り壊された現在、香川に残る戦前の港湾事務所としては唯一の存在として貴重な存在となっています。
f0116479_18345842.jpg


by sunshine-works | 2012-09-23 23:58 | 近代建築 香川県 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 19日
旧鎌田共済会図書館
香川県坂出市の近代建築その7

坂出駅から線路沿いに西へ程なく、市街地の一角に置かれた緑地公園の隣に大正期に建てられた旧図書館が残されています。現在は郷土資料館として使われているこの建物は坂出の実業家鎌田勝太郎が設立した鎌田共済会の私設図書館として大正11年に建てられました。設計・施工:竹中工務店。
f0116479_372187.jpg

坂出で醤油醸造と酒造を営む鎌田家の長男勝太郎は、家督を継いだ後に製塩業に進出。塩田勃興の中心的な役割を果たし、坂出を日本有数の製塩地帯へと発展させます。
塩田事業で大きな成功を収め、その後政界へ進出を果たした勝太郎は、地元文化振興を目的として私財を供して財団法人鎌田共済会を設立、その拠点として建てられたのがこの建物です。
f0116479_3235918.jpg

f0116479_3242260.jpg

坂出市内に現存する大正期の建物としては数少ない本格的な鉄筋コンクリート建物です。
直線・平面で構成されるシンプルな外観ですが、整然と並ぶ2階のアーチ窓やその上に立ち上がるパラペットに現される様式美に、当時最新の流行を取り入れた優れた建築意匠が見て取れます。
f0116479_4124574.jpg

f0116479_4125921.jpg

f0116479_4131371.jpg

中央に据えられた車寄せ。太い柱で分厚い庇を支えます。
f0116479_2454723.jpg

f0116479_342229.jpg

f0116479_3562251.jpg

f0116479_357046.jpg

人造石を貼った玄関周り。玄関扉は建物の規模に比べると小ぶりな印象です。
f0116479_3534869.jpg

f0116479_3533153.jpg

f0116479_355217.jpg

f0116479_3552114.jpg

鎌田共済会図書館は、戦前の私設図書館の中でも全国有数の規模を誇る存在として知られていました。
その後、この建物は坂出市立図書館として長きに亘って使われましたが、新図書館の竣工に伴って再び鎌田共済会に所有が移され、現在は郷土資料館として使われています。
f0116479_425911.jpg

建物左手にはもう一つ小さな入口があります。
f0116479_434422.jpg

f0116479_421185.jpg

f0116479_431636.jpg

全国に残る戦前築の図書館の遺構の中でも、意匠性に優れ、規模も大きなこの建物は、地方に於ける図書館建築の良例として貴重です。
隆盛を極めた当時の坂出の賑わいを今に伝える存在として、歴史資料としても重要な建物と思えます。
f0116479_4134636.jpg


by sunshine-works | 2012-09-19 23:57 | 近代建築 香川県 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 15日
旧倉敷町役場
岡山県倉敷市の近代建築その4


倉敷駅から南へ約1キロ、倉敷川に沿って古い白壁の蔵が並ぶ観光名所の一角に、白塗の木造洋風建築が建っています。
現在は観光案内所兼休憩所として使われているこの建物は、倉敷市の基となった旧倉敷町の役場として大正6年に建てられました。
設計は不詳とされていますが、県内各地で多くの公共建物を手掛けた江川三郎八とする資料もあります。年代的にも整合し、意匠表現の類似性も数多い事から、江川三郎八またはその弟子が直接または間接的に関わったものと思われます。
f0116479_115604.jpg

幕府天領として交易が栄え、多くの蔵や商家が建ち並んだ倉敷川沿いの一帯は、明治以降も地域の経済や行政の拠点として更なる発展を遂げます。倉敷村の役場も中心部となるこの地に置かれ、町制が布かれた後の大正6年に現存するこの建物に建てかえられます。
木造2階建て、下見板貼り、寄棟造り、北東角に銅板製の方形屋根を持つ塔屋を設ける洋風建物として建てられたモダンなこの庁舎は、周囲の古い町並みにも良く馴染み、美しい景観の一部として今日まで長く親しまれています。
f0116479_13125146.jpg

蔵や商家が密接して並ぶ町中に建てられた事もあり、建物の規模としては然程大きなものではありませんが、この時代の木造庁舎に特徴的な装飾表現が各所に盛り込まれ、意匠性に優れた建物です。
街区の中心部の角地、且、一帯の景観の要となる橋(中橋)の南詰に位置する事から、当初より意匠性を意識した建物だったと思えます。
f0116479_11561377.jpg
f0116479_11564433.jpg

f0116479_11584317.jpg

f0116479_1159247.jpg

f0116479_125171.jpg

f0116479_11581614.jpg

f0116479_11573136.jpg

f0116479_11593212.jpg

町役場として建てられたこの庁舎ですが、小さな建物は程なく手狭となり、昭和3年に新庁舎へ移転。
町役場としては竣工後僅か12年でその使命を終えてしまいます。
その後は様々な公共用途に充てられますが、最終的には空家として放置される状態が続きその存続が危ぶまれました。
保存を望む声を受けて昭和46年に保存修復工事、昭和63年には解体修理を施し現在に至っています。
f0116479_1312834.jpg

f0116479_13122357.jpg

北側角の正面入口。敷地の制限からか、玄関は小さく、庇の突き出しも僅かです。
f0116479_12504486.jpg

f0116479_12514413.jpg

f0116479_12541540.jpg

f0116479_12542451.jpg

東面の入口は更に小さな造りです。
f0116479_12511447.jpg

f0116479_1256428.jpg

f0116479_12535541.jpg

f0116479_12555386.jpg

f0116479_12553847.jpg

県内に残る木造の町村役場としては2番目に古く、大正期の役場建物の数少ない現存例となります。
地域のランドマークとして永くその姿を湛えてきたこの美しい建物は、観光資源として現在も重要な役割を果たしています。
f0116479_13131715.jpg


by sunshine-works | 2012-09-15 18:17 | 近代建築 岡山県 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 11日
高梁川東西用水組合事務所
岡山県倉敷市の近代建築その3

倉敷駅の北西、高梁川に沿って開かれた親水公園の一角にモダンな木造建物が建っています。
この建物は高梁川流域の水利を管理する高梁川東西用水組合の事務所として大正15年に建てられ、現在も現役施設として使われています。
f0116479_19291298.jpg

流域の治水と利水を目的に国家事業として明治末年より進められた高梁川の河川改修は、15年に及ぶ大工事の末、大正14年に完成に至ります。
この過程で設立された東西用水組合の施設として、高梁川改修事業中で最大規模の工事となった酒津取水堰の傍らに建てられたのがこの建物です。
木造2階建、寄棟造。2階中央上部に三角破風を立ち上げ、左右に小さなドーマー屋根を設けます。
アールデコやセセションスタイルを取り入れ、大正モダンの雰囲気を良く伝えます。
f0116479_1931456.jpg

f0116479_19302949.jpg

北に面して設けられた玄関。入口庇にはスパニッシュ風の瓦が葺かれていますが、これは後年に葺き替えられたものとの事です。
f0116479_19323757.jpg

f0116479_19325327.jpg

庇を支える支柱。柱と建物の基部には縦方向に目地を刻んだセメントを盛ってアクセントとしています。
f0116479_1940342.jpg

f0116479_19404869.jpg

f0116479_19411331.jpg

f0116479_19413251.jpg

1階と2階の窓の中間に設置されるドイツ壁風の飾り。この時代の庁舎や学校建築に良く見られる意匠です。
f0116479_19445488.jpg

f0116479_19513225.jpg

建物側面から裏側へ廻ります。
f0116479_19461751.jpg

f0116479_19463687.jpg

f0116479_1951287.jpg

現在は裏手に短い張り出し部分が伸びていますが、現存する当時の図面を見ると1階部分はこの後方に別棟が繋がり、上から見て工の字形の建物配置となっていました。
f0116479_19491443.jpg

f0116479_19544170.jpg

f0116479_19501930.jpg

f0116479_19504359.jpg

用途としては然程目に付く事のない地味な施設ですが、先進の流行を取り入れたモダンな意匠からは、この治水事業を象徴するシンボルとしての強い存在感を感じます。
f0116479_2022316.jpg


by sunshine-works | 2012-09-11 23:15 | 近代建築 岡山県 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 07日
旧生野警察署
朝来の近代建築その1


鉱山町の面影を残す生野の町並みに、古い木造の洋風建築が残されています。
現在公民館として使われているこの建物は、旧生野警察署として明治19年に建てられました。
f0116479_13341727.jpg

木造平屋建、下見板貼り。正面中央に車寄せを設け、庇に三角破風を飾ります。
幾層にも重なる蛇腹、軒や合掌部分に施された浮き彫り、庇を支える古代ギリシア風の木柱、上げ下げ式窓を囲むモール等々、小さな建物の中に洋風技法が濃密に表現されています。
f0116479_13344528.jpg

f0116479_13355722.jpg

f0116479_13353351.jpg

f0116479_13362879.jpg

f0116479_13363840.jpg

f0116479_13391598.jpg

この建物は地元の棟梁が西洋建築を模倣して手掛けた、いわゆる「儀洋風建築」になります。
生野には明治の早い時期から外国人鉱山技師が数多く招かれており、技師達の住居や鉱山施設の施工に携わった大工がこのような技術を習得していったものと思われます。
f0116479_1337940.jpg

f0116479_13374840.jpg

f0116479_13372724.jpg

f0116479_1342725.jpg

小さな建物ですが、中央入口の両脇にもそれぞれ入口が設けられています。
主入口と通用口と思われますが、左右の入口は部屋から直接出入する為の物なのでしょう。
f0116479_1341173.jpg

f0116479_13384476.jpg

f0116479_13413181.jpg

f0116479_13414732.jpg

建物左脇に小部屋を張り出します。後年の増築とも思われますが、ここにも扉が設けられています。
f0116479_13471848.jpg

明治19年の築となるこの建物は、兵庫県内に現存する木造洋風建築の中でも最古級の一つとなります。
神戸や阪神間から遠く離れたこの場所に、名もない棟梁達によって建てられたこの庁舎は当時の生野の先進性を示す優れた歴史遺産として貴重な資料です。
f0116479_13481497.jpg


by sunshine-works | 2012-09-07 19:58 | 近代建築 兵庫県 | Trackback | Comments(2)
2012年 09月 03日
旧篠山地方裁判所
篠山の近代建築その5

古い建造物が並ぶ篠山市の中心部に、一際目を惹く長大な木造建物が建っています。
現在美術館として使われているこの建物は、昭和56年まで使われていた旧篠山地方裁判所を転用したものです。築年は明治24年、現存する木造の裁判所としては我が国最古のものとなります。
f0116479_1454239.jpg

約40メートルに及ぶ主屋が南北に延び、主屋の入口部分と両翼が張出したE字形の木造平屋建て、伝統技法に西洋技術を取り入れた近代和風と呼ばれる建築様式で建てられています。
f0116479_1455619.jpg

f0116479_14595430.jpg

近代和風建築は従来技法を基礎とする事もあって、自然発生的に早い時期から各地に広まり、個人住宅や旅館・ホテル、駅舎、宗教施設等がこの様式で建てられて行きますが、この旧篠山地方裁判所のように庁舎や公的施設に取り入れられる例も数多くありました。
寺社や城郭に特徴的な荘厳さや威圧感は、権力の象徴であるこの種の建物に用いるに相応しいものだったのでしょう。
f0116479_1501491.jpg

f0116479_152578.jpg

この時代に建てられた近代和風建築の庁舎の多くが両翼部分を前に突き出すコの字型、あるいはこの建物で見られるEの字形をしています。
桃山様式を発展させたものとも思えますが、明治以前の和風建築でこの配置が用いられた例は少なく、西洋建築の影響が多分に伺えます。
f0116479_1523268.jpg

f0116479_1532412.jpg
f0116479_15204746.jpg

f0116479_153498.jpg

f0116479_15194667.jpg

敷地の南に設けられた門。建物の側面を伺う場所となりますが、当初この建物は南正面で建てられていました。近年に牽き家で向きを変えた事でこのような変則の構えとなっています。
f0116479_15131794.jpg

f0116479_15122762.jpg

f0116479_15242545.jpg

f0116479_15141368.jpg

現在は歴史美術館として使われていますが、館内には法廷部分が当時のまま残されており、自由に見学が出来ます。
f0116479_15261658.jpg

f0116479_15265159.jpg

f0116479_1527248.jpg

f0116479_15272025.jpg

f0116479_15272838.jpg

古い裁判所建物の現存例は各地に散見されますが、木造建物となるとその数は僅かなものとなります。
近代和風様式の極めとも言えるこの篠山地方裁判所は、地方に於ける明治期の司法施設の姿を伝える貴重な資料となっています。
f0116479_21413990.jpg


by sunshine-works | 2012-09-03 21:46 | 近代建築 兵庫県 | Trackback | Comments(0)