2009年 05月 15日
京見会館
姫路の近代建築その9

加古川、高砂から続く播磨工業地帯は姫路の臨海部にも及び、明治以降多くの近代産業の工場が築かれていきました。中でも昭和15年に操業を開始した日本製鉄広畑製鉄所は、姫路で最大規模の大工場となりました。今回は同製鉄所の施設として建てられた建物を紹介します。
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姫路の西部、幾つかの低山が連なる山地の麓に建つこの建物は広畑製鉄所の迎賓施設として昭和16年に建てられました。設計:遠藤新
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豊かな緑を背景に、水平方向になだらかに建物が伸びます。自然と建築が一体となって景観を織り成す、ライトの哲学を受け継いだ遠藤らしい作風です。
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設計者の遠藤新は帝国ホテルの設計スタッフとしてライトを補佐し、その後の旧山邑邸甲子園ホテルでは日本に於けるライトの後継者として腕を振るいます。この建物もどことなく旧山邑邸や甲子園ホテルを彷彿させるゆったりとしたシルエットになっています。
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窓枠や柱は濃い赤茶色で塗られています。独特のこの色合いは遠藤が手がけた多くの住宅にも見られる特徴となっています。
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この建物は北側に庭が設けられ、南は裏面になっています。塀に接する南面の景色です。
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西側の玄関周り。水平にまっすぐ伸びるポーチはいかにもライト風です。
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ガラス越しに玄関内部を覗います。
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この建物が建てられた昭和16年は、まさに戦時体制へ移行する時期にあたります。大規模な建造物の新築が規制されていた当時、軍事施設や生産設備でもない、いわば贅沢品の迎賓施設がこれだけの規模で建てられたのは極めて異例と思われます。国策企業であった日本製鉄(新日本製鉄の前身)でなければ実現不可能だったかも知れません。さすがに優先資材である鉄やコンクリートは使わずに木造としましたが、館内の装飾や調度品には贅を凝らし、一流の絵画や美術品も多く飾られています。
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かつて、大企業の事業所や工場は自前の迎賓施設を設ける例が多く見られました。都市部から離れた工場周辺にはホテルも少なく、交通アクセスが未整備だった事もあって、内外の賓客や会社幹部の接待、宿泊の場としてこのような建物が会社の威信を掛けて建てられた物と思われます。
合理化や経費削減が主要な経営課題となってしまった今日の感覚からすると、贅沢極まりない施設なのかも知れませんが、これらは日本の産業が活気に満ちていた時代を象徴する建物でもあります。
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by sunshine-works | 2009-05-15 21:07 | 近代建築 兵庫県 | Trackback | Comments(4)
Commented by ひろ009 at 2009-05-15 23:54 x
こんばんは。
ここのことは全く知りませんでした。規模が大きくて立派ですね。屋根瓦などのせいか、外観的には洋風の味わいは比較的抑え目のように感じました。中も極上のようですね。素晴らしい建物をご紹介頂き、ありがとうございました。
Commented by sunshine-works at 2009-05-16 12:08
ひろ009さん コメントありがとうございます。
残念ながら内部は非公開との事で見せていただけませんでしたが、内部はかなり見応えがありそうです。管理人さんの話ではすごい絵が沢山あるとの事でした。遠藤新が手掛けた建物の中では地味な方かも知れませんが、味わいのある建物だと思います。
Commented by Hiro at 2017-08-28 16:37 x
初めまして。京見会館を検索してヒットしました。
昔この近所に住んでいて、ココだけは何か別世界の様に思えて、近寄りがたい雰囲気を感じていたものです。

当時は朝、黒塗りのハイヤーが待機していたのが印象的です。

確か昭和天皇が滞在されたという話を聞いたことがあります。
Commented by sunshine-works at 2017-08-29 11:20
> Hiroさん
始めまして。さすが、国を代表する企業が政財界や海外からの賓客用施設として作っただけあって経済成長期の賑わいが目に浮かぶエピソードですね。


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